VVVFインバータのゲートドライバを製作する
三相誘導モーターを可変速駆動するため、三相交流の電圧と周波数を自在に調整できる装置「VVVFインバーター」を製作し、本物の電車と同じ仕組みでモーターを駆動するシステムを構築します。今回は、インバーター装置を構成する要素のひとつ「ゲートドライブ回路」を製作します。
インバータに用いるゲートドライブ回路の役割
今回は、三相インバータのゲートドライブ回路を製作します。
ゲートドライブ回路は、制御回路(マイコン)が生成するゲートパルス信号をもとに、信号の増幅処理やレベル変換を行うことで、インバータを構成する各パワー素子(ここではIGBT)を確実にターンオン、ターンオフできるようにする役割を担います。
もしもターンオフが不十分な場合、上下のパワー素子が同時にON状態となってアーム短絡を起こす可能性があり、非常に危険です。ゲートドライバが確実にスイッチングを行うことが重要になります。
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ゲートドライバIC(IR2302)の役割と動作
ゲートドライバには、IR(インターナショナル・レクティファイアー社)製のIR2302を使用します。IR2302は、デュアルサイドのゲートドライバICです。コントローラからハイサイド用のスイッチングパルスを供給すると、IR2302が自動的にデッドタイムを確保したローサイドの相補パルスも生成します。 IR2302にダイオードとコンデンサを外付けすることで、ブートストラップ回路を構成し、インバータのハイサイドをスイッチングする際に必要となるフローティング電源を確保します。
インバータを構成するパワー素子のスイッチング方法
インバータのハイサイド素子(IGBT、FETなど)をスイッチングするには、スイッチング用電源の確保に工夫が必要となります。スイッチング素子をIGBTとした場合の例を挙げると、ターンオンさせるにはエミッタ―ゲート間に電圧を印加する必要があります。
ローサイドのIGBTは、エミッタ端子がGNDに接続されているので、単純にゲート端子に必要な電圧を加えればターンオンできます。
では、ハイサイドのIGBTをスイッチングする際はどうなるのでしょうか。ここで注意しなければならないのが、ハイサイド素子のエミッタ端子の電位(GNDに対する電圧)が変動するということです。 前述したように、IGBTをターンオンするためには、エミッタ―ゲート間に必要な電圧をかける必要があるので、GNDを基準にした電源とは別に、エミッタ電位を基準としたフローティング電源が必要となるのです。 フローティング電源を確保するには、絶縁型DC-DCコンバータを用いるか、ブートストラップ回路を使用する方法があります。ここでは後者の、ブートストラップ回路を使用する方式を採用します。
マイコンからゲートドライバ回路にパルス信号を入力する
製作したゲートドライバはこんな感じです。
この回路にマイコンボードからパルス信号を入力し、実際にVVVFインバータを構成する素子のスイッチングを行う信号を出力させてみます。
ゲートドライバに入力するパルス信号(マイコンが生成する信号)はこちらです。PWM制御により、三相交流の電圧パルスを生成しています。マイコンボードの電源電圧は5Vなので、パルスは5V(ON時)、0V(OFF時)を交互に繰り返しています。
マイコンが生成したパルス信号は、ゲートドライブ回路のフォトカプラに入力されます。フォトカプラには、内部に赤外線LEDとフォトトランジスタが内蔵されており、光信号を介して信号を伝達します。マイコン側から見ると、ただLEDをON/OFFをするだけです。
LEDの点滅により、フォトトランジスタ(フォトカプラ出力側)の出力信号が切り替わり、パワー素子に直接接続されているゲートドライブICに入力されます。
ゲートドライバが出力するVVVFインバータのゲート信号
製作したゲートドライバに、マイコンボードからパルス信号を入力した際の出力パルス波形がこちらです。
この電圧信号はIGBTのゲート・エミッタ間に供給され、エミッタを基準に12Vの電圧を印加することで、VVVFインバータを構成するIGBTをターンオンします。ゲートドライバは、このようなハイサイド・ローサイド用ゲート信号を三相分出力し、主回路側のスイッチングを行うことで三相誘導モーターに電力を供給します。
ハイサイドとローサイドは相補パルスとなっており、IR2302が自動的に500nsのデッドタイムを生成している様子を確認できます。
次回は、ゲートドライブ回路と接続する三相インバータの主回路を製作します。